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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)141号 判決

東京都千代田区岩本町二丁目一六番一五号

原告

ダイナベクター株式会社

右代表者代表取締役

富成襄

右訴訟代理人弁護士

北武雄

川本慎一

吉川知宏

右訴訟復代理人弁護士

中村昌典

東京都渋谷区宇田川町一番一〇号

被告

東京法務局渋谷出張所登記官 中川誠一

右指定代理人

本田敦子

関澤節男

今井廣明

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

別紙物件目録記載の不動産につきなされた東京法務局渋谷出張所平成六年四月一四日受付第八八三七号所有権移転登記に係る登録免許税につき、被告が原告に対して平成七年五月一二日付けでした還付通知をすべき理由がない旨の通知(ただし、被告が同年九月二八日付けでした還付通知に係る部分を除く。)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録記載二の建物(以下「本件建物」といい、本件土地と合わせて「本件不動産」という。)を購入して、所有権移転登記手続のため登録免許税を納付した原告が、課税標準とされた不動産の価額中本件土地の価額が過大であったとして、登録免許税法(以下「法」という。)三一条二項に基づき、被告に対して、所轄税務署長への同条一項の還付通知をするよう請求したところ、その理由がない旨の通知を受けたので、その取消しを求める事案である。

一  関係法令等の定め

1  法は、不動産につき、売買を原因として所有権移転登記を受けようとする者は、当該登記の時における不動産の価額を課税標準とし、それに一〇〇〇分の五〇の税率を乗じた登録免許税を納付しなければならないとし(法二条、三条、九条、一〇条一項、別表第一、一(二)ニ)、課税標準たる不動産の価額は、当分の間、当該登記の申請の日がその年の四月一日から一二月三一日までの期間内であるものについては、当該登記申請の属する年の一月一日現在において地方税法三四一条九号に掲げる固定資産課税台帳に登録された価格(以下「登録価格」という。)に一〇〇分の一〇〇を乗じて計算した金額によることができるとされている(法附則七条、登録免許税法施行令(以下「令」という。)附則三項)が、平成六年四月一日から平成八年三月三一日までの間に受ける土地に関する登記に係る課税標準たる不動産の価額は、法附則七条の規定にかかわらず、当該登記の申請の日がその年の四月一日から一二月三一日までの期間内であるものについては、当該登記申請の属する年の一月一日現在における登録価格に一〇〇分の四〇を乗じて計算した金額によることとされている(租税特別措置法(平成八年法律第一七号による改正前のもの。以下「措置法」という。)八四条の三及び平成六年法律第二二号附則二四条九項(以下、右両規定を合わせて「措置法調整規定」という。)並びに租税特別措置法施行令(平成八年政令第八三号による改正前のもの。以下「措置令」という。)四四条の六第一項)。

また、同一の申請により数個の不動産について所有権移転登記を受ける場合には、その登録免許税の課税標準の額は、当該登記に係る不動産の価額の合計額とされている(令五条)。

2  登記官は、過大に登録免許税を納付して登記を受けたという事実があるときは、遅滞なく、当該過大に納付した登録免許税の額につき、当該登録免許税の納税地の所轄税務署長に対し還付通知をしなければならないとされており(法三一条一項三号)、登記を受けた者は、当該登記の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記を受けた日から一年を経過する日までに、その旨を登記官に申し出て、所轄税務署長に対する還付通知をすべき旨の請求をすることができる(法三一条二項)。

二  争いのない事実等

1  本件不動産の所有権移転登記と登録免許税の納付(甲第三号証、乙第一号証)

(一) 原告は、平成六年三月三一日、原告の代表取締役である富成襄(以下「原告代表者」という。)から、本件土地を代金一億八〇〇〇万円、本件建物を代金二〇〇〇万円で買い受ける旨の売買契約を終結し、同日、原告の取締役会の承認を得た上で、同年四月一四日、東京法務局渋谷出張所に対し、同年三月三一日売買を原因とし、登記権利者を原告、登記義務者を原告代表者とする本件不動産の所有権移転登記申請をし、同出張所同年四月一四日受付第八八三七号をもって所有権移転登記を経由した(以下「本件登記」という。)。その際、原告は、課税標準額を一億三〇六二万四〇〇〇円とし、登録免許税額六五三万一二〇〇円を納付した。

(二) 本件登記時における本件土地の平成六年度登録価格は三億一一五〇万五六〇〇円であったから、措置法調整規定、措置令四四条の六第一項を適用して、右平成六年度登録価格に一〇〇分の四〇を乗じると一億二四六〇万二二四〇円となり、本件建物の平成六年度登録価格が六〇二万二六〇〇円であったため、これを合算し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項を適用して、本件登記に係る登録免許税の課税標準を求めると一億三〇六二万四〇〇〇円となり、右課税標準額に税率一〇〇〇分の五〇を乗ずると登録免許税額は六五三万一二〇〇円となって、本件登記申請の際の課税標準額及び納付税額と一致したため、被告は本件登記申請を受理した。

2  原告の被告に対する還付通知の請求(甲第一号証、乙第二号証)

原告は、平成七年四月一二日、本件土地の価額を五七四八万〇二〇〇円として計算した場合の本件登記に係る登録免許税額と先に納付した登録免許税額との差額が三三五万六〇九〇円であるとして、右差額について、被告に対して、原告の納税地の所轄税務署長に対する還付通知をするよう請求した。これに対して、被告は、同年五月一二日付けで、還付通知をすべき理由がない旨の通知をし、右通知は同月一五日に原告に送達された(右通知のうち、後記3(二)記載の被告による還付通知に係る部分を除くものを、以下「本件通知」という。)。

3  本件通知に対する原告の不服申立て等の経緯(甲第一号証、乙第三、第四号証)

(一) 原告は、平成七年七月一四日、前記2記載の還付通知をすべき理由がない旨の通知を不服として、国税不服審判所長に対し審査請求をした。

(二) その後、平成七年九月一九日付け東京都固定資産評価審査委員会の決定に基づき、本件土地の登録価格が、三億一一五〇万五六〇〇円から二億七七二三万九九八〇円に修正(減額)されたため、被告は、措置法調整規定、措置令四四条の六第一項、法二条、同別表第一、一(二)ニ、令五条、通則法一一八条一項を適用して算出される登録免許税額と本件登記申請の際に納付した登録免許税額との差額につき、同月二八日付けで、原告の納税地の所轄税務署長である神田税務署長に対し、過誤納を還付原因とし、還付金額を六八万五三〇〇円とする還付通知をした。

(三) 前記(二)の東京都固定資産評価審査委員会の審査決定については、原告代表者において、その取消しを求めて提訴している(当庁平成七年(行ウ)第三一七号事件)。

(四) 国税不服審判所長は、平成八年四月九日、原告の審査請求を棄却する旨の裁決を行い、同月一二日、右裁決書謄本が原告に送達された。

(五) 原告は、平成八年七月一二日、本件訴えを提起した。

三  争点

1  措置法調整規定が、憲法八四条、一四条一項に違反するものであるか否か。

(原告)

(一) 憲法八四条に規定する租税法律主義は、課税の根拠を法又は条例によるべしとの形式的意味にとどまらず、憲法一四条一項とともに、税の負担が実質的に平等であること、税負担が国民の担税力に即して公平に配分され、各種の租税法律関係において国民が平等に扱われなければならないとの租税平等主義をも内容とするものである。本件においては、この観点から合憲性を問うものである。

(二) 登録免許税における不動産の価額を登録価格により定める旨の法附則七条の規定の違憲、違法を争うものではないが、本件土地につき、登録価格が当初約五・二倍に上昇していたため、登録免許税額が約二・一七倍になるといういわれない増税の結果が生じているのは、措置法調整規定が全国各地の具体的な固定資産評価額(地方税法三八八条以下の規定に基づく評価額)の上昇を無視し、全国一律に一〇〇分の四〇を乗じて課税標準を定めているために、かかる上昇率の高低により登録免許税の負担が著しく異なるためであり、憲法の定める租税平等主義に反するものであることの証左である。

被告は、措置法調整規定は政策的見地から税負担の軽減を図ったものと主張するが、これらの規定から導かれる結果は、固定資産評価額の上昇率に比例して登録免許税額が増税となるというものであるところ、公平に税負担の軽減を図る見地からは、固定資産評価額の上昇率に応じた軽減規定を設けるべきであり、実際に、固定資産税においては、固定資産評価額の上昇に伴い急激に増税の結果が生じないように負担調整措置が行われており、技術的にさほどの困難を伴うものではないにもかかわらず、固定資産税において負担調整がなされ、登録免許税において負担調整がなされないでよいとする合理的理由は存しない。したがって、措置法調整規定は、政策的見地から税負担の軽減を図るという目的達成のための手段としては明らかに合理性を欠くものであり、憲法八四条、一四条一項に違反するものである。

(被告)

措置法調整規定は、平成六年の固定資産評価額の評価替えに伴い、法一〇条一項、法附則七条、令附則三項により、登録価格と同一の価格をもって課税標準たる不動産の価額としている登録免許税についても、税負担の急増が予想されたため、税負担を調整する趣旨で設けられたものであり、〈1〉売買における土地の登記における一件当たりの登録免許税額の、過去の評価替え時における平均上昇率が約一・五倍であること、〈2〉平成六年度の登録免許税の課税標準額の設定に当たり、課税標準額の時価に占める割合をいわゆるバブル経済期前一〇年間における各年の固定資産評価額の総額が各年の民有地時価総額に占める割合と同程度にまで引き上げるには、平成六年度の固定資産評価額に約五〇パーセントの調整を加えるのが相当との検討結果が示されたことを考慮した調整内容とされたものであり、その立法目的が正当であり、その内容が右目的達成のための手段として相当であることは明らかである。

登録免許税は、全国一律の課税であり、かつ登記所での登記の際、納税が完結するものであることからすれば、その税額の決定は、簡易、迅速になされるべきものであり、したがって、その負担調整措置についても、その仕組みは全国一律の簡明なものとせざるを得ないことは明らかである。また、原告主張のように、具体的な土地の固定資産評価額の上昇倍率に応じて区々に調整を行うということは、登録免許税における簡易、迅速な税額決定という性質になじまないばかりか、固定資産評価額の上昇倍率が高い土地に係る登録免許税の納税者が、そうでない納税者に比べ、登録免許税の負担の軽減をより多く受けることになり、公平な税負担の軽減を図るという趣旨にむしろ反するというべきである。

2  措置法調整規定を本件に適用することが、憲法八四条、一四条一項に違反するか否か。

(原告)

本件においては、措置法調整規定の適用により、登録免許税が二倍を超えるという結果が生じているが、このように何ら理由がない登録免許税の著しい増税の結果が生じる場合にまで、措置法調整規定を適用することは、租税平等主義を規定する憲法八四条、一四条一項に違反することは明らかである。

(被告)

措置法調整規定の適用対象として規定されている登記に係る登録免許税の課税標準となる不動産の価額については、措置令四四条の六第二項に規定する「特別の事情」が存しない限り、登記官としては、措置法調整規定を適用することが義務付けられているのであって、それ以外の調整措置を採用して課税標準たる不動産の価額を決定することはできないところ、「特別の事情」とは、固定資産課税台帳に不動産の価格を登録した後、当該不動産自体について、損壊、地目の変換その他これに類する事情によって、質的又は量的な形状の変化が生じたために、当該不動産の価額が登録価格により難い程度に変動した場合に限定されるのであって、原告が主張するような一律に地価下落傾向が著しい状況下にあるという事情は、「特別の事情」には該当しないというべきである。

3  平成六年度の固定資産評価額の評価替えが憲法八四条に違反するものであるか否か。

(原告)

措置法調整規定の適用の前提となる平成六年度の固定資産評価額の評価替えは、平成四年一月二二日付けの自治事務次官通達「『固定資産評価基準の取扱いについて』の依名通達の一部改正について」(自治固第三号。以下「七割評価通達」という。)によるものであり、これにより固定資産評価額を公示価格の七割程度に評価替えしたものであるところ、「七割程度」とする合理的根拠はなく、公示価格地点が限られていることから、このような評価が実際に行われ得るかどうか極めて疑わしい等の疑義が存するにもかかわらず、納税者に増税の結果を生じさせる改正が、法令の根拠なく、自治事務次官通達で行われている点は、租税法律主義に明らかに反するものである。

(被告)

(一) 右原告の主張は、本訴の弁論終結段階に至って提出されたものであって、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきものである。

(二) 地方税法においては、固定資産税の課税標準は不動産の適正な時価とされ(同法三四九条一項、三四一条五号)、七割評価通達は、この時価の評価に関する固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号。以下「評価基準」という。)の統一的運用につき定められた自治事務次官依名通達「固定資産評価基準の取扱いについて」(昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号)を改正することによって、「適正な時価」を求める判断基準、評価基準に定められた正常売買価格の評価について一つの解釈指針を示したものであって、新たな課税要件を定めたものではない。したがって、評価基準及び七割評価通達に従って固定資産評価額を求めても、何ら租税法律主義に反するものではない。

四  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三争点に対する判断

一  措置法調整規定が、憲法八四条、一四条一項に違反するものであるか否か(争点1)について

1  登録免許税の課税標準たる不動産の価額に関する法一〇条一項、法附則七条及び令附則三項並びにその特例措置としての措置法調整規定及び措置令四四条の六第一項の規定が、租税要件明確主義、租税要件法定主義に反するものでないことは、関係法令の定めについて既に説示したところから明らかである。そして、原告は、不動産の価額を当該不動産の登録価格によることとした法附則七条、令附則三項についての違憲をいうものではなく、措置法調整規定につき、憲法八四条及び一四条一項による租税平等主義に対する違反があると主張する。

たしかに、租税の賦課根拠が国会の定める法律に明確に規定され租税法律主義の要請を満たすとしても、立法府の合理的裁量の範囲を超えた不平等な税法については、立法裁量の逸脱の有無が問題となり得るというべきである。

ところで、措置法調整規定は、平成六年度の固定資産評価額の評価替えにおいて、地価公示価格水準の七割程度を目途に評価されている結果、平成六年度の評価替えによる登録価格の上昇倍率が後記のとおり三倍程度となることとなったため、平成六年度の評価替えから平成九年度の評価替えまでの間の特別措置として課税標準を登録価格の一〇〇分の四〇とするものであって、法附則七条によるときは、固定資産評価額の変動(上昇)がストレートに登録免許税額に反映することによる納税者の税負担の変動(上昇)を緩和するものであるから、措置法調整規定によって新たに課税標準を増加させるものではない。そして、この税負担の緩和措置として、登記申請のされた不動産の登録価格につき全国一律に一定の割合を乗ずるという方式によることは、課税標準を右登録価格によるとする法附則七条を前提とする限り、実質的に税率を一律に軽減した場合と同一の効果を生ずるものであり、適用範囲が全国に及ぶ国税に関する方法としては公平を担保しやすいものということができるのであって、地域的な不平等、不公平の誹りを受けるべきものではない。むしろ、登録免許税の課税標準たる不動産の価額は登記官が判断しなければならず、右判断に当たって、個々の登記官の恣意をできるだけ排除し、全国共通の客観的基準を設け、これに従い迅速に処理しなければならないという点に照らせば、合理的理由が存するものというべきである。

2  そして、措置法調整規定において税負担の緩和措置として乗ずることとされた一〇〇分の四〇という割合についても、証拠(乙第八ないし第一〇号証)によれば、平成六年度の評価替えにより、各都道府県の評価の基準となる基準宅地において、登録価格の上昇倍率が三・〇二倍となっていること、売買による土地の登記一件当たりの登録免許税額の過去の評価替え時の平均上昇倍率が約一・五倍であること、右の点といわゆるバブル経済期前一〇年の登録価格総額の民有地時価総額(公示価格ベース)に占める割合まで評価総額を引き上げる場合の調整割合が約五〇パーセントであることを勘案して、措置法調整規定の内容が決定された旨説明されていることが認められるのであって、措置法調整規定における税負担の緩和割合が、憲法八四条、一四条一項に違反することを窺わせるような事情は存しないものというべきである。

3  この点につき、原告は、措置法調整規定においては、全国各地の固定資産評価額の上昇程度の差違が考慮されていないこと、あるいは税額調整措置において固定資産税におけるような負担増加に応じた負担調整措置が採られていないことをもって、違憲であると主張する。

しかし、登録免許税は登記等につき当該登記等に係る利益に着目して税を課するものであり(法二条)、不動産登記についてみれば、右登記等に係る利益を当該登記申請に係る不動産の価額に基づいて算定するものであるから、地価上昇の割合が全国的に一律でないとしても、高額な土地の登記による利益が高額と評価されることは何ら課税の平等、公平を害するものではない。また、登録免許税が右のような性質を有し、登記等の際に一回的に課される税であることからすれば、固定資産の所有に課税利益を認めて、その所有者に対して所有の期間中継続的に課税することを予定する固定資産税とでは負担調整の方法が異なることは当然であり、固定資産税における負担調整措置は、評価替えに係る登録価格そのものを変更することなく、所有者の負担の急激な増加を回避するために課税標準の特例を認めること等により負担の漸増を図ったものであるが、登録免許税につきかかる方式を採用したときには、同一価値の不動産であっても登記の時期が異なることによって、あるいは、同一価値の不動産につき同一時期に登記を受けても、右各土地の登録価格の上昇率が異なることによって、税負担が異なることとなり、不動産価額に応じた税負担という登録免許税の趣旨に照らして看過することのできない不平等、不公平を生ずることになるのであるから、登録免許税については、固定資産税及び都市計画税について採用されているような、個別の土地の登録価格の上昇率に応じた減価率を設け、これを適用して課税標準額を決定するという方法は適さないものというべきである。

4  以上のとおりであるから、措置法調整規定が憲法八四条、一四条一項に違反する旨の原告の主張は採用できないものというべきである。

二  措置法調整規定を本件に適用することが、憲法八四条、一四条一項に違反するか否か(争点2)について

1  措置法調整規定の合憲性については右に説示したとおりであるが、合憲の法律であっても、それが適用された結果が、当該法律の達成しようとする目的と異なり、当該法律の予定する合理的限界を超えた不利益、制裁を課する結果となる場合には、右法律の適用につき、憲法適合性を検討する余地が生ずる。

しかし、原告が、措置法調整規定の本件への適用について違憲であると主張するところは、措置法調整規定の違憲事由として主張した点を、本件の具体的事例に即して述べるものにすぎず、措置法調整規定が合理性を有し、それ自体が憲法八四条、一四条一項に違反するものではないことは前記のとおりであって、他に本件における登録免許税の算定が法又は措置法調整規定が達成しようとする目的と異なり、右各法律の予定する合理的限界を超えた不利益、制裁を原告に課する結果となっていると認めるに足りる事情については立証がない。

2  この点につき、原告は、土地価格が下落傾向にあるのに、本件土地の登録価格が五倍以上に上昇したため、本件における登録免許税額も従前の評価額を前提とした場合に比して二倍を超えるという、納税者にとって甘受し得ない結果が生じている旨の主張をする。

しかし、原告の主張する事態は、登録価格が上昇したことに伴い、登録価格に基づいて課税標準を算定するという法附則七条の予定する方式から発生するものであるところ、このような算定方式そのものは、固定資産税の登録価格が適正な時価を意味するものであり(地方税法三四九条一項、三四一条五号)、この価格の決定については統一的な評価の手続及び基準が定められ(同法三八八条)、価格決定につき不服審査及び争訟の方途が講じられていること(同法四三二条ないし四三四条)に照らして、合理的なものというべきであるから、結局、原告の主張するところは、本件において、措置法調整規定の緩和割合が過少であること又は登録価格の増加の不当をいうものにすぎない。そして、措置法調整規定の緩和割合については、立法裁量を超えたものと解すべき事情がないことは既に説示したとおりであり、また、登録価格の増加については、次に説示するとおり、当該登録価格に係る審査決定に対する取消訴訟で争うべきものであり、措置法調整規定を本件に適用することを違憲ならしめるものではないというべきである。

なお、原告が本件土地を取得した平成六年三月三一日に登記を受けていれば、平成五年一二月三一日における登録価格が計算の基礎とされたことになるが、登記利益は登記申請の時に判断するほかないのであるから、不動産価額の評価方法に変更が生じた後の登記において税額が増加したことが措置法調整規定を本件に適用することを違憲ならしめるものでもない。

3  以上のとおり、措置法調整規定を本件に適用することが、憲法八四条、一四条一項に違反するとする原告の主張は採用できない。

三  平成六年度の固定資産評価額の評価替えが憲法八四条に違反するか否か(争点3)について

1  原告は、措置法調整規定の前提となる平成六年度の固定資産評価額の評価替えに当たり、納税者に増税の結果を生じさせる改正が自治事務次官通達である七割評価通達で行われている点は租税法律主義に反すると主張する(なお、右主張が訴訟の完結を遅延させるものとは認められない。)。そして、原告の主張するところは、従前は客観的時価の数割と評価されていた登録価格が七割評価通達により七割まで引き上げられたことにより、登録価格に連動することとなる措置法調整規定の内容も変更されたとして、租税法律主義違反をいうものと解される。

しかし、右の趣旨での租税法律主義違反、すなわち、法律の形式によらない現行の租税の変更であるというためには、平成六年度の評価替えより前の評価、すなわち、七割評価よりも低額の評価が法律の規定と同様の規範性を取得していたことが前提となるところ、本件全証拠によっても、かかる事実を認めるに足りる証拠はない。

また、登録価格の決定に違法があるときは、右登録価格に関する審査の申出及び審査決定への取消訴訟によってのみ争うことができ(地方税法四三四条二項)、登録価格の決定に違法があるとされ、登録価格が減額されるときは、当該土地に係る登録免許税額も減額されることになるのであるから、仮に、登録価格の決定に違法が存するとしても、その違法が重大かつ明白で、右処分を当然無効ならしめるものと認めるべき場合を除き、取消権限を有する者により取り消されない限り、右登録価格を前提として、措置法調整規定を適用することが違法となるものではないというべきところ、本件不動産の登録価格(本件土地の登録価格については、東京都固定資産評価審査委員会の決定に基づき修正された後にのもの。以下同じ。)は、未だ取消権限を有する者により取り消されておらず、右登録価格の決定を当然無効のものと認めるべき事情はない。

2  以上によれば、平成六年度の固定資産評価額の評価替えが憲法八四条に違反する旨の原告の主張は採用できない。

四  本件通知の適法性

以上によれば、本件不動産の登録価格に、措置法調整規定、措置令四四条の六第一項、法二条、同別表第一、一(二)ニ、令五条、通則法一一八条一項を適用して算出された登録免許税額と原告が納付した登録免許税額から被告が平成七年九月二八日付けでした還付通知に係る還付金の額を控除した残額とは一致するものというべきであるから、本件通知に違法な点は認められない。

第四結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)

別紙

物件目録

一 東京都渋谷区神山町五二番二

宅地  一八五・四二平方メートル

二 東京都渋谷区神山町五二番地二所在

家屋番号 五二番二

木造スレート葺二階建居宅

床面積 一階 八九・五一平方メートル

二階 八五・三八平方メートル

以上

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